混声合唱組曲 悪魔の飽食

【原詩】森村誠一
【編詩】池辺晋一郎・神戸市役所センター合唱団
【作曲】池辺晋一郎
【MIDIデータ作成】Iwakichsky
Ⅰ.プロローグ 七三一の重い鎖   ハルピン郊外20キロ
平房の地に囲われし
6キロ四方のこの世の地獄
731部隊に何があったのか

1.何故あなたは止めたのか
  人であることを止めたのか
  生きながら殺されしマルタよ哀れ
  生きながら解剖されし少年よ哀れ
  生きてしあれば無限の可能性に花開いたであろうに
  誰がマルタを殺したか
  誰が少年を切り刻んだのか

2.何故あなたは拒めなかったか
  狂いし命を拒めなかったか
  731の秘密は死すとも漏らすな
  石井中将閣下の命ならば一切他言無用
  血塗られたメスを握ったあなたを縛った重い鎖
  誰も答えようとはしなかった
  誰も語ろうとはしなかった

3.何があなたをそうさせた
  口を閉ぎしたまま死ぬには重すぎる
  夜ごと枕辺に立つはマルタの亡霊
  あなたはあの時止めていた、人を
  人ではないそのまま
  人ではないそのまま 墓に向かって行くのか
  人の心のかけらでもあれば
  語らずには居られないはず

ハルピン郊外20キロ
平房の地に囚われし
6キロ四方のこの世の地獄
731部隊に何があったのか
日本人よ今 自らに問え
Ⅱ.生体の出前いたします   1.より取り見取り お好みをおっしゃって下さい
  男、女、若いのから年寄り
  大、中、小、細いの、太いの
  白いの、黄色いの、何でも
  中国人、ロシア人、モンゴル人、朝鮮人、どれでも
  実験材料のリザーブをどうぞ

2.731へいらっしゃい 病気のいろいろはいかが
  どんな実験もお望みのまま
  コレラ、ペスト、チフス、赤痢
  梅毒、破傷風、天然痘、あらゆる病気、ウィルス、リケッチャ
  あらゆる種類をとりそろえてあります

  発病し 生きのびたマルタは凍傷実験
  飢餓、水断ち実験、感電に火傷実験
  空気静脈注入実験、胃腸の位置を逆転するイチョウ返し
  馬や猿の血による代用輸血実験
  どんな実験も 731ではお望み次第

  凍傷で五体損傷のマルタは毒ガス実験
  731のマルタに無駄はない
  医者としてなすことあらんと期する者は
  731にいらっしゃい

Ⅲ.赤い支那靴   1.もしもあなたが
  私の娘に会うことがあったなら
  このことを伝えてほしい
  父は約束を守れない
  仲秋節に家に帰り
  おまえといっしょに月を見るという約束を

2.もしもあなたが
  私の娘に会うことがあったなら
  この靴を渡してほしい
  父は何も残してやれない
  せめてこの靴をはいて
  できるだけ遠くまで歩いていっておくれ

  十歳のおまえには
  辛い一人の道だろうが
  父は寄り添ってやれない
  人よりも早く一人歩きするおまえに
  せめてこの靴をはいてほしい

Ⅳ.反乱     撃つなら撃て!
  マルタは立ち上がった
  私たちはマルタではない
  私たちを釈放せよ
  しからずんば死を与えよ
  マルタはモルモット
  モルモットとして生きるより
  人間として死にたい

  兵士たちは知っていた
  正義は彼らにないことを
  兵士たちは確かに聞いていた
  マルタの切々たる訴えを
  マルタは立ち上がった
  人間として立ち上がった

  その時 与えられた
  死

  マルタの生より
  人間としての死
  死への跳躍
  その誇り

Ⅴ.三十七年目の通夜   1.私はストップウォッチを握った
  ガラス張りのチャンバーの中
  ロシア人母と子のマルタ

  ここで生まれ ここで育った
  女の子は4歳 栗色の髪
  母マルタの胸に 顔埋めていた

  顔を上げる子供マルタ
  その あどけない瞳……

(ナレーション) 毒ガス注入
         最終秒読み開始
         5.4.3.2.1. ガス注入!

2.私はストップウォッチを押した
  我が子を我が胸に抱き寄せる
  ロシア人の母マルタ

  その時吹き出した青酸ガス
  母は子をかばう 吹きかかるガス
  母マルタは からだを盾にした

  ガスにおおわれる子供マルタ
  その 何も知らぬ瞳……

3.何故 ストップウォッチを押せたのか
  何故 目をそむけなかったのか
  何故 我が妻 我が子を思わなかったのか
  何故
  何故 目を開いて見ていられたのか

  私はロシア人親子マルタを殺した
  ああ
  あの時 あの子の澄んだ瞳……
  悔やんでも 流す涙は届かない
  37年目
  悔やんでも 流す涙は届かない

Ⅵ.友よ 白い花を      マルタは人間です
  それぞれの祖国があり
  妻があり 子があり
  そして愛する人が居るのです
  あらゆる人が その祖国を愛するのと同じく
  私たちも 私たちの祖国を愛したのです

1.同士よ生きよ
  殺される最後の時まで生きよ
  私たちに明日はなくても
  次の世代には明日がある

  この暗い監獄にも
  日の光のさしこむことを 信じよう

2.妻よ子よ
  いつの日か この地に来てほしい
  その時は忌まわしい傷跡もなく
  人は古い恨みを忘れるだろう

  空には明るい太陽があり
  地上には なごやかな集いがあるだろう

3.友よ愛しい人よ
  私たちの墓がみつからなかった時
  白い花を ただ置いていってほしい
  人が殺し合いをやめた証しに
  地上を白い花で 埋めてほしい

  マルタの死を歴史のいましめとし
  永遠の不戦を誓い合ってほしい

Ⅶ.君よ 目を凝らしたまえ   1.君よ目を凝らしたまえ
  目を背けたくても 背けてはならない
  目を凝らしたまえ

  私たちは信じよう 人間の英知と良心を
  科学を悪魔に渡してはならない
  人間の英知が破れぬために 私たちはカを合わせよう
  一人になってはならない 一人にならないために
  私たちは集まろう

2.君よ耳を傾けたまえ
  耳を塞ぎたくても 塞いではならない
  耳を傾けたまえ

  誤ちを隠せば いつか同じ誤まち
  悲惨な記憶が風化していく
  歴史の教えを忘れぬため 私たちはカを合わせよう
  ひとつひとつの小さな石となり
  永遠の平和を誓う
  大きなケルンを築こう

3.君よ 歌を歌おう
  731の記憶を歌わなければならない
  ささやくだけではいけない
  暗い時間におおわれてはならない
  私たち人間なのだから 犯した罪を忘れぬため
  だから高く語ろう
  だから高く歌おう

  未来のために
  未来のために

4.(1番のくりかえし)


初演は1984年10月23日。有名な731部隊を題材とした曲です。歌詞に大変なメッセージ性を感じこれは取り上げなければと思っていました。また池辺晋一郎氏は日本を代表する作曲家の一人で、日本のショスタコーヴィッチのような方です。

 以下は、初演時での池辺氏のコメント。
『先人の重大な誤ちと罪に対し、今を生きる私たちが、「時」という隔たりの外から単に告発したり、糾弾したりするのみではいけないはずだ。同じ民族としてその罪に連座するつもりの弾劾でなくてはならない。森村誠一氏の「悪魔の飽食」には、その弾劾の血がにじんでいる。
 歌うことも、弾劾のひとつの方法である。ぼくは歌を書くが、それらの歌を、たくさんの日本人の、罪の連座から涌き起こるべきものにしたいと願っている。
 歌の涌き起る土を、一人でも多くの人で形成したい。』

神戸市役所センター合唱団よ・mp3i化の許可を得ました。有り難うございます。
歌詞の著作権は合唱団が持っているそうです。

森村誠一公式サイト
http://www.morimuraseiichi.com/
池辺晋一郎氏の情報
http://www.tokyo-concerts.co.jp/artist/ikebe.html
731部隊の情報
http://www.anti731saikinsen.net/
http://www1.ocn.ne.jp/~sinryaku/sub5.htm
http://www.medianetjapan.com/2/16/government/zyzyu/gallery/731_3.htm
http://n471.hp.infoseek.co.jp/china-photo/731-butai/731-butai.html
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sus/horrible.htm
http://www007.upp.so-net.ne.jp/togo/human/ai/shirou.html
(以上 Iwakichsky)

JASRAC情報

製作日誌:
平成15年7月10日 歌詞のみ
平成15年7月12日 第Ⅰ章 11小節目までMIDI化
平成15年7月15日 第Ⅰ章 30小節目までMIDI化
平成15年7月16日 第Ⅰ章 47小節目までMIDI化
平成15年7月18日 第Ⅰ章 58小節目(伴奏は69小節)までMIDI化
平成15年11月20日 神戸市役所合唱団さんから歌詞(スキャナーから採った)の誤字のご指摘をいただきましたので訂正しました。
平成16年5月20日 第Ⅰ章 76小節目までMIDI化
平成17年1月25日 第Ⅰ章完成
第Ⅱ章17小節まで