人間をかえせ
Grand Cantata Take back the human!

【作詞】 峠 三吉(「原爆詩集」による)
【作曲】大木正夫


ShortCut
 ●対訳
 ●MIDIタイムスケール
 ●コメント
 ●製作日誌



  

ちちをかえせ ははをかえせ.
としよりをかえせ
こどもをかえせ

わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ

にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ


第1章 『八月六日』『死』

八月六日

あの閃光が忘れえようか
瞬時に街頭の三万は消え
圧しつぶされた暗闇の底で
五万の悲鳴は絶え

渦巻くきいろい煙がうすれると
ビルデイングは裂け、橋は崩れ
満員電車はそのまま焦げ
涯しない瓦礫と燃えきしの堆積であった
広島

やがてポロ切れのような皮膚を垂れた
両手を胸に
くずれた脳漿を踏み
焼け焦げた布を腰にまとって
泣きながら群れ歩いた裸体の行列

石地蔵のように散乱した練兵場の屍体
つながれた筏へ這いより折り重った河岸
の群も
灼けつく日ざしの下でしだいに屍体とかわり
夕空をつく火光の中に
下敷きのまま生きていた母や弟の町のあたりも
焼けうつり

兵器廠の床の糞尿のうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、
丸坊主の
誰がたれとも分らぬ一群の上に朝日がさせば
すでに動くものもなく
異臭のよどんだなかで
金タライにとぶ蝿の羽音だけ

三十万の全市をしめた
あの静寂が忘れえようか
そのしずけさの中で
帰らなかった妻や子のしろい眼寓が
俺たちの心魂をたち割って
込めたねがいを
忘れえようか!

  死

泣き叫ぶ耳の奥の声
音もなく膨れあがり
とびかかってきた
烈しい異状さの空間
たちこめた塵煙の
きなくきいはためきの間を
走り狂う影
 <ああ
にげら
れる>
はね起る腰から
崩れ散る煉瓦屑の
からだが
燃えている
背中から突き倒した
熱風が
袖で肩で
火になって
煙のなかにつかむ
水槽のコンクリー角
水の中に
もう頭
水をかける衣服が
焦げ散って
ない
電線材木釘硝子片
波打つ瓦の璧
爪が燃え
踵がとれ
せなかに貼りついた鉛の溶鈑
(う・う・う・う)
すでに火
くろく
電柱も壁土も
われた頭に噴きこむ
火と煙
の渦
(ヒロちゃん ヒロちゃん)
抑える乳が
あ 血綿の穴
倒れたまま
−おまえおまえおまえはどこ
腹這いいぎる煙の中に
どこから現われたか
手と手をつなぎ
盆踊りのぐるぐる廻りをつづける
裸のむすめたち、
つまづき什れる環の
瓦の下から
またも肩
髪のない老婆の
熱気にあぶり出きれ
のたうつ癇高いきけぴ
もうゆれる炎の道ばた
タイコの腹をふくらせ
唇までめくれた
あかい肉塊たち
足首をつかむ
ずるりと剥けた手
ころがった眼で叫ぶ
白く煮えた首
手で踏んだ毛髪、脳漿
むしこめる煙、ぶっつかる火の風
はじける火の粉の闇で
金いろの子供の瞳
燃える体
灼ける咽喉
どっと崩折れて

めりこんで

おお もう
すすめぬ
暗いひとりの底
こめかみの轟音が急に遠のき
ああ
どうしたこと
どうしてわたしは
道ばたのこんなところで
おまえからもはなれ
し、死な
ねば

らぬ


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 43:49
序・第1章 対訳 Time
第2章
第3章
第4章
第5章
フィナーレ
製作日誌
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第2章 『仮繃帯所にて』

あなたたち
泣いても涙のでどころのない
わめいても言葉になる唇のない
もがこうにもつかむ手指の皮膚のない
あなたたち

血とあぶら汗と淋巴液とにまみれた四股
をばたつかせ
糸のように塞いだ眼をしろく光らせ
あおぶくれた腹にわずかに下着のゴム紐
だけをとどめ
恥しいところさえはじることをできなく
させられたあなたたちが
ああみんなさきほどまでは愛らしい
女学生だったことを
たれがほんとうと思えよう

焼け爛れたヒロシマの
うす暗くゆらめく焔のなかから
あなたでなくなったあなたたちが
つぎつぎととび出し這い出し
この草地にたどりついて
ちりちりのラカン頭を苦悶の埃に埋める

何故こんな目に遭わねばならぬのか
なぜこんなめにあわねばならぬのか
何の為に
なんのために
そしてあなたたちは
すでに自分がどんなすがたで
にんげんから遠いものにされはてて
しまっているかを知らない

ただ思っている
あなたたちはおもっている
今朝がたまでの父を母を弟を昧を
(いま逢ったってたれがあなたとしりえよう)
そして眠り起きごはんをたべた家のことを
(一瞬に垣根の花はちぎれいまは灰の跡さえわからない)

おもっているおもっている
つぎつぎと動かなくなる同類のあいだに
はさまって
おもっている
かって娘だった
にんげんのむすめだった日を


第2章 対訳 Time
序・第1章
第3章
第4章
第5章
フィナーレ
製作日誌

第3章 『眼』


  みしらぬ貌がこっちを視ている
いつの世の
いつの時かわからぬ暗い倉庫のなか
歪んだ格子窓から、夜でもない昼でもないひかりが落ち
るいるいと重なったかつて顔だった貌。
あたまの前側だった貌。
にんげんの頂部にあって生活のよろこびやかなしみを
ゆらめく水のように映していたかお。
ああ、今は眼だけで炎えるしゅくしゅくと腐った肉塊
もげ落ちたにんげんの印形
コンクリートの床にガックリ転がったまま
なにかのカで圧しつけられてこゆるぎもしないその
蒼ぶくれてぶよつく重いまるみの物体は
亀裂した肉のあいだからしろい光りだけを移動させ
おれのゆく一歩一歩をみつめている。
俺の背中を肩を腕を.べったりとひっついて離れぬ眼。
なぜそんなに視るのだ
あとからあとから追っかけまわりからかこんで、
ほそくしろい視線を射かける
眼、め、メ
あんなにとおい正面から、あの暗い陰から、この足もとからも
あ、あ、あ
ともかく額が皮膚をつけ鼻がまっすぐ隆起し
服を着けて立った俺という人間があるいてゆくのを
じいっと、さしつらぬいてはなれぬ眼。
熱気のつたわる床から息づまる壁から、
がらんどうの天井を支える頑丈な柱の角
から現われ、あらわれ、消えることのない眼。
ああ、けさはまだ俺の妹だった人間のひとりをさがして
この闇に踏みこんだおれの背中から胸へ
腋から肩ヘ
ベたべた貼りついて永却きえぬ眼!
コンクリートの上の、筵の藁の、
どこからか尿のしみ出す編目に埋めた崩れそうな頬の
塗薬と、分泌物と、血と、焼け灰のぬら
つく死に貌のかげで
や、や、
うごいた眠が、ほろりと透明な液をこばし
めくれた唇で
血泡の歯が
おれの名を、噛むように呼んでいる。


第3章  対訳 Time
序・第1章
第2章
第4章
第5章
フィナーレ
製作日誌

第4章 『ちいさい子』


ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどこにいるのか
ふとつまづいた石のように
あの晴れた朝わかれたまま
みひらいた眼のまえに
母さんがいない
くっきりと空を映すおまえの瞳のうしろで
いきなり
あか黒い雲が立ちのばり
天頂でまくれひろがる
あの音のない光りの異変
無限につづく幼い問いのまえに
たれがあの日を語ってくれよう
ちいきい子かわいい子
おまえはいったいどこにいったか
近所に預けて作業に出かけた
おまえのこと
その執念だけにひかきれ
焔の街をつっ走って来た両足うらの腐肉に
湧きはじめた蛆を
きみ悪がる気力もないまま
仮収容所のくら閣で
だまって死んだ母さん

そのお腹におまえをおいたまま
南の島で砲弾に八つ裂かれた父さんが
別れの涙をぬりこめたやさしいからだが
火傷と膿と斑点にふくれあがり
おなじような多くの屍とかさなって悶え
非常袋のそれだけは汚れも焼けもせぬ
おまえのための新しい絵本を
枕もとにおいたまま
動かなくなった
あの夜のことを
たれがおまえに話してくれよう

ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどうしているのか
裸の太陽の雲のむこうでふるえ
燃える埃の、つんぼになった一本道を
降り注ぐ火弾、ひかり飛ぶ硝子のきららに
追われ走るおもいのなかで
心の肌をひきつらせ
口ごもりながら
母さんがおまえを叫び
おまえだけ
おまえだけにつたえたかった
父さんのこと
母さんのこと
そしていま
おまえひとりにきせてゆく切なきを
たれがつたえて
つたえてくれよう

そうだわたしは
きっとおまえをさがしだし
その柔い耳に口をつけ
いってやるぞ
日本中の父さん母さんいとしい坊やを
ひとりびとりひきはなし
くらい力でしめあげ
やがて蝿のように
うち殺し
突きころし
狂い死なせたあの戦争が
どのようにして
海を焼き島を焼き
ひろしまの町を焼き
おまえの澄んだ瞳から、すがる手から
父さんを奪ったか
母さんを奪ったか
ほんとうのそのことをいってやる
いってやるぞ!


第4章  対訳 Time
序・第1章
第2章
第3章
第5章
フィナーレ
製作日誌

第5章 『呼びかけ』


いまでもおそくはない
あなたのほんとうの力をふるい起すのは
おそくはない
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた
心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から、どくどくと戦争を
呪う血膿をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつなら

焔の迫ったおも屋の下から
両手を出してもがく妹を捨て
焦げた衣服のきれはしで恥部をおおうこともなく
赤むけの両腕をむねにたらし
火をふくんだ裸足でよろよろと
照り返す瓦礫の砂漠を
なぐさめられることのない旅にきまよい出た
ほんとうのあなたが
その異形の腕をたかくきしのべ
おなじ多くの腕とともに
また墜ちかかろうとする
呪いの太陽を支えるのは
いまからでもおそくはない

戦争を厭いながらたたずむ
すべての優しい人々の涙腺を
死の烙印をせおうあなたの背中で塞ぎ
おずおずとたれたその手を
あなたの赤むけの両掌で
しっかりと握りあわせるのは
さあ
いまでもおそくはない


第5章・Finale  対訳 Time
序・第1章
第2章
第3章
第4章
フィナーレ
製作日誌
Finale 『人間をかえせ』

ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ

わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ

にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ

にんげんをかえせ
ああ!

Finale  対訳 Time
序・第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
製作日誌










TOP

前から取り組みたかった曲ですが、いつやろうかと(なんしろ大変なボリュームなんで)悩んでました。平成15年3月20日にアメリカのブッシュ大統領が国際世論を踏みにじってイラクへの戦争という愚挙をはじめた今こそ、取り組もうと着手しました。
折りしも、今、峠三吉の没後50年、ということです。肺葉摘出術の手術台の上で死去したのは、1953年3月10日。36歳。ちょうど50年前でした。
原爆被爆後、生きられたのはわずか8年弱で、彼が遺したものは、『原爆詩集』一冊だけ。(「原子雲の下より」という共作もありますが)

エーちゃんは、労音で、この曲をうたったことがあります。指揮が外山雄三さん、出来たばかりの新星交響楽団の演奏で、アルトが成田絵智子さんでした。1972年の夏でした。半年がかりの練習で、合唱指揮は郡司 博さん。当時の楽譜を元にこのMIDIの打ち込みをやってますが、外山雄三さんから指示された歌い方のメモが所々に書き込まれています。例えば、「8月6日」の「あの閃光がわすれえようか」の「わすれえようか」の合唱の部分は「普通の日本語としてのリズム」と、書き込んでいます。
大変だったのは、「死」のバスソロの「ああ、逃げられる!」に続く、合唱「はね起きる腰から〜」から「〜鉛の溶鈑」まての絶叫型の部分。外山先生も、この部分で指揮棒を振っても無駄!とあきらめの心境で、指揮棒をぐるぐる回すだけ。合唱団の暴走にまかせっきりでした。

「呼びかけ」はバスソロ「い〜までも、おそくはない!」というフレーズで始まります。何時までも忘れられないアピール力を持った、多分、このフレーズを言いたいばっかりにこの詩が出来ているのではないかと思われるほど、説得力の有る部分です。

(H15.11.24)
久しぶりに製作を再開しました。第2章 at the first-aid station (「繃帯」の字が変換されないんですよ)なんと重苦しい曲でしょう。原爆の絵で被爆者が列をなして歩きさまよっている図があります。あのむなしい行進の足取りがバックに流れています。エーちゃんはテナーのため、Dの音を繰り返すだけで簡単なんですが、バスはG・F#・F・F#など変化に富んだものでした。でもこの組み合わせがあの重苦しさをだしています。
一方、テーマをオーケストラとソプラノ・アルトが奏でるのですが、重苦しさに悲しさをプラスした、なんとも言いがたい感じです。

【原爆詩集】

八月六日


盲目
仮繃帯所にて

倉庫の記録
としとったお母さん
炎の季節
ちいさい子
墓標


河のある風景

微笑
1950年の8月6日

巷にて
ある婦人へ
景観
呼びかけ
その日はいつか
希い

【対訳】 TOP

Preface
ちちをかえせ ははをかえせ.
としよりをかえせ
こどもをかえせ
Give back father,give back mother,
Give back grandpa,give back gramdma,
Give back boys,give back girls.
わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ
Give me back myself,give me back men
Linked to me.
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
As long as men live as men,
Give back Peace,
Peace that never crumbles.
第1章 『八月六日』 TOP TimeScale August 6th
八月六日

あの閃光が忘れえようか
瞬時に街頭の三万は消え
圧しつぶされた暗闇の底で
五万の悲鳴は絶え
August 6th

Who could forget that flash!
One instant swept
Thirty thousand off the street,
Crushing darkness stiffed
Fifty thousand screams,
渦巻くきいろい煙がうすれると
ビルデイングは裂け、橋は崩れ
満員電車はそのまま焦げ
涯しない瓦礫と燃えきしの堆積であった
広島
hen yellow smoke whirling upwards
Reveals rent buildings and smashed bridges,
Crowded trams standing gutted
And inteminable rubble and cinders.
This was Hiroshima.
やがてポロ切れのような皮膚を垂れた
両手を胸に
くずれた脳漿を踏み
焼け焦げた布を腰にまとって
泣きながら群れ歩いた裸体の行列
Then there came,hands on breasts,
Shredded skin hanging,
Treading in spilt brains,
Singed tatters ofcloth about their hips,
Hordes of wailing naked.
石地蔵のように散乱した練兵場の屍体
つながれた筏へ這いより折り重った河岸
の群も
灼けつく日ざしの下でしだいに屍体とかわり
夕空をつく火光の中に
下敷きのまま生きていた母や弟の町のあたりも
焼けうつり
Bodies scattered like stone
Images over the Parade Ground;
A tangled mass crawled to moored timber rafts
And died in heaps under the parching sun・
Flames,soaring against the evening sky,
Burned alive
Mothers and brothers
     Pinned under ruins.
兵器廠の床の糞尿のうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、
丸坊主の
誰がたれとも分らぬ一群の上に朝日がさせば
すでに動くものもなく
異臭のよどんだなかで
金タライにとぶ蝿の羽音だけ
In the faeces on the arsenal floor
Escaped scboolgirls
Sprawled,swollen-bellied,,
Eyes shattered,Skinless and hairless.
The moring sun shone on the unrecognizable
Herd.Nothing moved,
In the hanging stench,
But the cloud of flies round the metal basins.
三十万の全市をしめた
あの静寂が忘れえようか
そのしずけさの中で
帰らなかった妻や子のしろい眼寓が
俺たちの心魂をたち割って
込めたねがいを
忘れえようか!
Who could forget that total silence
That reigned over the city
      of three hundred thousand.
Who could forget the wishes
That mothers and children dying
            heavy-eyed
Forced deep
    into their hearts
ln that silence.
TOP A Death
泣き叫ぶ耳の奥の声
音もなく膨れあがり
とびかかってきた
烈しい異状さの空間
たちこめた塵煙の
きなくきいはためきの間を
走り狂う影
 <ああ
にげら
れる>
Distant screamsin the depths of ears.
Swollen without noise,
A sudden attack
Of tempestuous space,of dark intensity,
Figures running amuck
Between smoldering eddies
Of lingering dust clouds.
"Oh
I can
Escape."
はね起る腰から
崩れ散る煉瓦屑の
からだが
燃えている
背中から突き倒した
熱風が
袖で肩で
火になって
煙のなかにつかむ
水槽のコンクリー角
水の中に
もう頭
水をかける衣服が
焦げ散って
ない
電線材木釘硝子片
波打つ瓦の璧
爪が燃え
踵がとれ
せなかに貼りついた鉛の溶鈑
(う・う・う・う)
My body,I jumped up,
Waist ablaze,
Buried in splintered bricks.
The volcanic blast slapped me,
Flames
On the sleeves,on the shoulders・
My frantic hands grasping,in dark smoke,
A corner of tbe concrete water tank,
My head dipped
Into the water.
My clothes scorched,
Useless against the fire.
Telegraph lines,timbers,nails,glass
Splinters,Walls jolted out of alignment,
My nails in flames,
My heels burnt off,
A molten lead plate
Stuck on my back,
‘Oh,Oh,Oh,Oh’
すでに火
くろく
電柱も壁土も
われた頭に噴きこむ
火と煙
の渦
(ヒロちゃん ヒロちゃん)
抑える乳が
あ 血綿の穴
倒れたまま
−おまえおまえおまえはどこ
腹這いいぎる煙の中に
どこから現われたか
手と手をつなぎ
盆踊りのぐるぐる廻りをつづける
裸のむすめたち、
Flames,
Telegraph poles,mud wall,
Charred.
A whirl of flames and fumes
Penetrating
My cracked skull.
‘Hiro-chan,Hiro-chan!’
My breasts I hold my hands on,
Holes of blood-soaked cotton,
I cry out,lying on the ground,
- Where are you,Where are you,Wbere are you?
Crawling and creeping along in the smoke,
Appearing from nowhere,
Holding hands together,
Dancing around,
A circle of maked girls.
つまづき什れる環の
瓦の下から
またも肩
髪のない老婆の
熱気にあぶり出きれ
のたうつ癇高いきけぴ
もうゆれる炎の道ばた
タイコの腹をふくらせ
唇までめくれた
あかい肉塊たち
足首をつかむ
ずるりと剥けた手
ころがった眼で叫ぶ
白く煮えた首
手で踏んだ毛髪、脳漿
The circle
   stumbles
     collapses.
Into the rubble,
Reveals a bare shoulder undeneath.
A hairless old woman,
Baked in the heat,
Wrung awry,shrieking
By the searing roadside; the air simmering.
Distended stomach risen into a great globe,
Lips inside out,
Lumps of red flash sitting.
A hand seizes my ankle,
Slips off, the skin left on my foot.
An eyeball,pleading,rolls.
A boiled-white head.
My hands slide through hair,and brains;
むしこめる煙、ぶっつかる火の風
はじける火の粉の闇で
金いろの子供の瞳
燃える体
灼ける咽喉
どっと崩折れて

めりこんで

おお もう
すすめぬ
暗いひとりの底
こめかみの轟音が急に遠のき
ああ
どうしたこと
どうしてわたしは
道ばたのこんなところで
おまえからもはなれ
し、死な
ねば

らぬ
Reeking smoke,flashing fiery wind.
In the darkness of the showering sparks,
Children's eyes turn gold.
My body on fire,
My throat burning,
With a thud
The arm fallen
Sunk
The shoulder
Ah,no further
Can I crawl,
Alone,tbe dark depth,
Throbs in the temples,sudden,ebbed,
Ah,
What
Why must I
On the roadside, like this
Away from you
Mus, mu
st
d
i
e
第2章 『仮繃帯所にて』 TOP TimeScale At the First-Aid Station
あなたたち
泣いても涙のでどころのない
わめいても言葉になる唇のない
もがこうにもつかむ手指の皮膚のない
あなたたち
You
Who weep although you have no ducts for tears,
Who cry althdugh you have no lips for words,
Who wis to clasp
Although you have no skin to touch,
You:
血とあぶら汗と淋巴液とにまみれた四股
をばたつかせ
糸のように塞いだ眼をしろく光らせ
あおぶくれた腹にわずかに下着のゴム紐
だけをとどめ
恥しいところさえはじることをできなく
させられたあなたたちが
ああみんなさきほどまでは愛らしい
女学生だったことを
たれがほんとうと思えよう
Limbs twitching,oozing blood and foul secretions,
Eyes all puffed-up slits of white,
Tatters of underwear
Your only clothing now,
Yet with no thought of shame.
Ah!How fresh and lovely you all were
A flash of time ago
When you were scbool-girls,a flash ago
(Who could believe it now?)
焼け爛れたヒロシマの
うす暗くゆらめく焔のなかから
あなたでなくなったあなたたちが
つぎつぎととび出し這い出し
この草地にたどりついて
ちりちりのラカン頭を苦悶の埃に埋める
Out from tbe murky,quivering flames
Of burning,festering Hiroshima
You step(unrecognizable
Even to yourselves),
You leap and crawl,One by one,
Onto this grassy plot,
Wisps of hair on bronze bald heads,
Into the dust of agony.
何故こんな目に遭わねばならぬのか
なぜこんなめにあわねばならぬのか
何の為に
なんのために
そしてあなたたちは
すでに自分がどんなすがたで
にんげんから遠いものにされはてて
しまっているかを知らない
Why have you had to suffer this?
Why this,the cruellest of inflictions?
Was there some purpose?
Why?
You look so monstrous,but could not know
How far removed you are now from mankind.
ただ思っている
あなたたちはおもっている
今朝がたまでの父を母を弟を昧を
(いま逢ったってたれがあなたとしりえよう)
そして眠り起きごはんをたべた家のことを
(一瞬に垣根の花はちぎれいまは灰の跡さえわからない)
You think:
Perhaps you think
Of mothers and fathers,brothers and sisters,
(Could even they know you now?)
Of sleeping and waking,of breakfast and home
(Where the flowers in the hedge scattered in a flash
And even the ashes now have gone.)
おもっているおもっている
つぎつぎと動かなくなる同類のあいだに
はさまって
おもっている
かって娘だった
にんげんのむすめだった日を
Thinking,thinking; you are thinking,
Trapped with friends who ceased to move,one by one,
Thimking wheen once you were a daughter.
A daughter
Of humanity.
第3章 『眼 TOP TimeScale Eyes
みしらぬ貌がこっちを視ている
いつの世の
いつの時かわからぬ暗い倉庫のなか
歪んだ格子窓から、夜でもない昼でもないひかりが落ち
るいるいと重なったかつて顔だった貌。
あたまの前側だった貌。
lien eyes
In the dark storehouse
An intent stare
An unknown time
An unknown place.
Light,Without night
     or day
Fell through the crooked window bars
Upon disfigured shapes
にんげんの頂部にあって生活のよろこびやかなしみを
ゆらめく水のように映していたかお。
ああ、今は眼だけで炎えるしゅくしゅくと腐った肉塊
もげ落ちたにんげんの印形
コンクリートの床にガックリ転がったまま
なにかのカで圧しつけられてこゆるぎもしないその
蒼ぶくれてぶよつく重いまるみの物体は
亀裂した肉のあいだからしろい光りだけを移動させ
おれのゆく一歩一歩をみつめている。
Faces once,mirroring
Joy and sorrow
As shining water:
Now lumps of flesh,secreted pus,
Only glaring eyes,
- Human identity broken and fallen.
Dropped on the stone floor,
Unstirring as if pinned by some invisible force
The green swollen flabby heavy round substance
Reflects a white glint between ripped flesh,
The eyes watching my every step in the silence.
俺の背中を肩を腕を.べったりとひっついて離れぬ眼。
なぜそんなに視るのだ
あとからあとから追っかけまわりからかこんで、
ほそくしろい視線を射かける
眼、め、メ
Why stare so hard at me?
EYES,Eyes,eyes
Chased me,hounded me,beseiged me as they
Shot thin white beams into me
あんなにとおい正面から、あの暗い陰から、この足もとからも
あ、あ、あ
ともかく額が皮膚をつけ鼻がまっすぐ隆起し
服を着けて立った俺という人間があるいてゆくのを
じいっと、さしつらぬいてはなれぬ眼。
熱気のつたわる床から息づまる壁から、
がらんどうの天井を支える頑丈な柱の角
から現われ、あらわれ、消えることのない眼。
From in front,
    from the dark corner,
      from directly below,
Oh,Oh,Oh,
Gimlet eyes pierced through my body
Which still had its skin and nose intact
And stood upright with clotbes on.
From the scorching hot floor
    from the suffocating walls,
       From the beams
Supporting the gaping ceiling,
Eyes appeared,to haunt me forever.
ああ、けさはまだ俺の妹だった人間のひとりをさがして
この闇に踏みこんだおれの背中から胸へ
腋から肩ヘ
ベたべた貼りついて永却きえぬ眼!
コンクリートの上の、筵の藁の、
どこからか尿のしみ出す編目に埋めた崩れそうな頬の
塗薬と、分泌物と、血と、焼け灰のぬら
つく死に貌のかげで
や、や、
うごいた眠が、ほろりと透明な液をこばし
めくれた唇で
血泡の歯が
おれの名を、噛むように呼んでいる。
I stepped into the abyss
Seeking my sister who was once a live being
And was branded
Indelibly - eyes scorched
On my back,breast,sides and shoulders,
Eyes in a death mask
    stained with ash,
      blood,pus and ointment,
Its cheek half-collapsed,
Pressed into the urine-soaked
Straw rug on the stone floor,
Oh my God!
An eyeball moved
    and dropped
A drip of crystal water
The head was calling my name
With flayed lips
Through blood-foamy teeth.
第4章 『ちいさい子』 TOP TimeScale Little Child
ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどこにいるのか
ふとつまづいた石のように
あの晴れた朝わかれたまま
みひらいた眼のまえに
母さんがいない
Little one,my dear,
Where on earth are you now?
Your Mummy has gone from before your wide open
  eyes;
We were parted on that
Bright clear morning.
It was like suddenly stumbling over a rock.
くっきりと空を映すおまえの瞳のうしろで
いきなり
あか黒い雲が立ちのばり
天頂でまくれひろがる
あの音のない光りの異変
無限につづく幼い問いのまえに
たれがあの日を語ってくれよう
ちいきい子かわいい子
おまえはいったいどこにいったか
近所に預けて作業に出かけた
おまえのこと
In the depths of your eyes
Reflecting a spotless sky,
A sudden
Dark reddish cloud
    reared up
Unfurling itself at the top of heaven,
An unprecedented
    flash without noise.
Who will explain that day
To your endless innocent questions,mydear?

Little one,my dear,
Where on earth have you gone?
Leaving you in the care of neighbours I went to work.
その執念だけにひかきれ
焔の街をつっ走って来た両足うらの腐肉に
湧きはじめた蛆を
きみ悪がる気力もないまま
仮収容所のくら閣で
だまって死んだ母さん
Later,sustained only by my love for you
l dashed through the burning city
On the rotting flesh of my two feet
Where the maggots had begun to crawl.
But too feeble even to be revolted
Your Mummy died quietly
Int he darkness of the first-aid station.
そのお腹におまえをおいたまま
南の島で砲弾に八つ裂かれた父さんが
別れの涙をぬりこめたやさしいからだが
火傷と膿と斑点にふくれあがり
おなじような多くの屍とかさなって悶え
非常袋のそれだけは汚れも焼けもせぬ
おまえのための新しい絵本を
枕もとにおいたまま
動かなくなった
あの夜のことを
たれがおまえに話してくれよう
Your Daddy,While I bore you in my womb,
Blown to bits by a shell in a southern island.
Gentle Daddy's body anointed by parting tears,
swollen with burns,pus and purple blotches,
Writhing under his fellow soldiers.
Leaving only his haversack,unsoiled and unburnt.
(With a new picture book for you)
He became still.
Who will tell you
Of that night?
ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどうしているのか
裸の太陽の雲のむこうでふるえ
燃える埃の、つんぼになった一本道を
降り注ぐ火弾、ひかり飛ぶ硝子のきららに
追われ走るおもいのなかで
心の肌をひきつらせ
口ごもりながら
母さんがおまえを叫び
おまえだけ
おまえだけにつたえたかった
父さんのこと
母さんのこと
そしていま
おまえひとりにきせてゆく切なきを
たれがつたえて
つたえてくれよう
Little one,dear,
What on earth are you doing now?
Mummy ran straight through the deafened street,the
Naked sun qulvering
    beyond the cloud;
Driven by a barrage of sparks and dazzling glass,
Mummy's fleeing thoughts went like at tremor through
 the heart.
I screamed out your name,words
        stumbling.
Only you,
Only you I wanted to tell,
Of your Daddy,
Of your Mummy,
Of the pain I felt as I left you alone.
Who will tell
About this?
そうだわたしは
きっとおまえをさがしだし
その柔い耳に口をつけ
いってやるぞ
日本中の父さん母さんいとしい坊やを
ひとりびとりひきはなし
くらい力でしめあげ
やがて蝿のように
うち殺し
突きころし
狂い死なせたあの戦争が
どのようにして
海を焼き島を焼き
ひろしまの町を焼き
おまえの澄んだ瞳から、すがる手から
父さんを奪ったか
母さんを奪ったか
ほんとうのそのことをいってやる
いってやるぞ!
That's it!
I will find you,
I will tell you,
Snuggling my lips to your soft ear,
How war severed children from their parents,
How it strangled them slowly with a
        dark force;
Swatted tbem finnally
Like flies;
Gored them to death;
Drove them mad.
How it burnt the sea and islands,
How it burnt Hiroshima,
How it wrenched your Daddy,
Snatched your Mummy,
From your clinging hands,from before your innocent
eyes.
I will tell you
I will tell you the whole truth.
第5章 『呼びかけ』 TOP TimeScale Appealing
いまでもおそくはない
あなたのほんとうの力をふるい起すのは
おそくはない
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた
心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から、どくどくと戦争を
呪う血膿をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつなら
Even now it's not too late;
Still it's not too late to muster your true power
If you have tears which fall unceasingly
(Your heart pierced by the flash
That scorched your eyes that day)
Or if you still reek
Of Hiroshima where the curse of war
Drips in bloody pus from the wounds.
焔の迫ったおも屋の下から
両手を出してもがく妹を捨て
焦げた衣服のきれはしで恥部をおおうこともなく
赤むけの両腕をむねにたらし
火をふくんだ裸足でよろよろと
照り返す瓦礫の砂漠を
なぐさめられることのない旅にきまよい出た
ほんとうのあなたが
その異形の腕をたかくきしのべ
おなじ多くの腕とともに
また墜ちかかろうとする
呪いの太陽を支えるのは
いまからでもおそくはない
It's not too late for you
Who abandoned your sister squirming,
Both her arms thrust out
From beneath the flame-enveloped house,
And staggered off on a bitter journey
Through a desert of glaring rubble.
Not even covering your private parts with bits of charred
cloth,
Tottering on feet burnt bare,
Red skinless arms dangling
      across your breast.
戦争を厭いながらたたずむ
すべての優しい人々の涙腺を
死の烙印をせおうあなたの背中で塞ぎ
おずおずとたれたその手を
あなたの赤むけの両掌で
しっかりと握りあわせるのは
さあ
いまでもおそくはない
It's not too late even now for you
To hold up the cursed sun which is
About to drop again-
By thrusting your crippled arms out high
With throngs of afrms like yours,
With your back bearing
      the brand of death
Drying the tears of all those gentle people
Who,
 although they hate war,
      just stand still.
Let them grasp each other firmly
With those timid limp hands;
Let them grasp your red peeled palms.
Even now
It's mot too late.
Finale 『人間をかえせ』 TOP Take Back the Human
ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ
Give back father,give back mother,
Give back grandpa,give back gramdma,
Give back boys,give back girls.
わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ
Give me back myself,give me back men
Linked to me.
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえ
As long as men live as men,
Give back Peace,
Peace that never crumbles.
にんげんをかえせ
ああ
Take Back the Human


【MIDIタイムスケール TOP

ちちをかえせ ははをかえせ.
としよりをかえせ
こどもをかえせわたしをかえせ 
わたしにつながる にんげんをかえせ
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
00:24
00:31
00:38
00:53
01:12
01:30

第1章 『八月六日』 TOP 対訳
八月六日
あの閃光が忘れえようか
瞬時に街頭の三万は消え
圧しつぶされた暗闇の底で
五万の悲鳴は絶え
渦巻くきいろい煙がうすれると
ビルデイングは裂け、橋は崩れ
満員電車はそのまま焦げ
涯しない瓦礫と燃えきしの堆積であった
広島
やがてポロ切れのような皮膚を垂れた
両手を胸に
くずれた脳漿を踏み
焼け焦げた布を腰にまとって
泣きながら群れ歩いた裸体の行列
石地蔵のように散乱した練兵場の屍体
つながれた筏へ這いより
折り重った河岸の群も
灼けつく日ざしの下でしだいに屍体とかわり
夕空をつく火光の中に
下敷きのまま生きていた母や弟の町のあたりも
焼けうつり
兵器廠の床の糞尿のうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、
丸坊主の
誰がたれとも分らぬ一群の上に朝日がさせば
すでに動くものもなく
異臭のよどんだなかで
金タライにとぶ蝿の羽音だけ
三十万の全市をしめた
あの静寂が忘れえようか
そのしずけさの中で
帰らなかった妻や子のしろい眼寓が
俺たちの心魂をたち割って
込めたねがいを
忘れえようか!
02:28
02:37
02:42

02:57
03:28
03:33
03:37
03:40
03:49
04:02
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05:50

06:14
06:20
06:23

06:31
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07:24
07:38
07:47
07:54
08:01
08:04
TOP 対訳
泣き叫ぶ耳の奥の声
音もなく膨れあがり
とびかかってきた
烈しい異状さの空間
たちこめた塵煙の
きなくきいはためきの間を
走り狂う影
 <ああ
にげら
れる>
はね起る腰から
崩れ散る煉瓦屑の
からだが
燃えている
背中から突き倒した
熱風が
袖で肩で
火になって
煙のなかにつかむ
水槽のコンクリー角
水の中に
もう頭
水をかける衣服が
焦げ散って
ない
電線材木釘硝子片
波打つ瓦の璧
爪が燃え
踵がとれ
せなかに貼りついた鉛の溶鈑
(う・う・う・う)
すでに火くろく
電柱も壁土も
われた頭に噴きこむ
火と煙
の渦
(ヒロちゃん ヒロちゃん)
抑える乳が
あ 血綿の穴
倒れたまま
−おまえおまえおまえはどこ
腹這いいぎる煙の中に
どこから現われたか
手と手をつなぎ
盆踊りのぐるぐる廻りをつづける
裸のむすめたち、
つまづき什れる環の
瓦の下から
またも肩
髪のない老婆の
熱気にあぶり出きれ
のたうつ癇高いきけぴ
もうゆれる炎の道ばた
タイコの腹をふくらせ
唇までめくれた
あかい肉塊たち
足首をつかむ
ずるりと剥けた手
ころがった眼で叫ぶ
白く煮えた首
手で踏んだ毛髪、脳漿むしこめる煙、ぶっつかる火の風
はじける火の粉の闇で
金いろの子供の瞳
燃える体
灼ける咽喉
どっと崩折れて

めりこんで

おお もう
すすめぬ
暗いひとりの底
こめかみの轟音が急に遠のき
ああ
どうしたこと
どうしてわたしは
道ばたのこんなところで
おまえからもはなれ
し、死な
ねば

らぬ
08:14
08:16
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11:44

11:47

11:52
第2章 『仮繃帯所にて』 TOP 対訳
あなたたち
泣いても涙のでどころのない
わめいても言葉になる唇のない
もがこうにもつかむ手指の皮膚のない
あなたたち
血とあぶら汗と淋巴液とにまみれた四股
をばたつかせ
糸のように塞いだ眼をしろく光らせ
あおぶくれた腹に
わずかに下着のゴム紐だけをとどめ
恥しいところさえはじることをできなく
させられたあなたたちが
ああみんなさきほどまでは愛らしい
女学生だったことを
たれがほんとうと思えよう
焼け爛れたヒロシマの
うす暗くゆらめく焔のなかから
あなたでなくなったあなたたちが
つぎつぎととび出し這い出し
この草地にたどりついて
ちりちりのラカン頭を苦悶の埃に埋める
何故こんな目に遭わねばならぬのか
なぜこんなめにあわねばならぬのか
何の為に
なんのために
そしてあなたたちは
すでに自分がどんなすがたで
にんげんから遠いものにされはてて
しまっているかを知らない
ただ思っている
あなたたちはおもっている
今朝がたまでの父を母を弟を昧を
(いま逢ったってたれがあなたとしりえよう)
そして眠り起きごはんをたべた家のことを
(一瞬に垣根の花はちぎれいまは灰の跡さえわからない)
おもっているおもっている
つぎつぎと動かなくなる同類のあいだに
はさまって
おもっている
かって娘だった
にんげんのむすめだった日を
1:13
1:19
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6:16

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7:02
7:10
7:31
7:40
7:50


8:16
8:23
第3章 『眼 TOP 対訳
みしらぬ貌がこっちを視ている
いつの世の
いつの時かわからぬ暗い倉庫のなか
歪んだ格子窓から、夜でもない昼でもないひかりが落ち
るいるいと重なったかつて顔だった貌。
あたまの前側だった貌。
00:13
00:28
00:33
00:47
01:17
01:28
にんげんの頂部にあって生活のよろこびやかなしみを
ゆらめく水のように映していたかお。
ああ、今は眼だけで炎えるしゅくしゅくと腐った肉塊
もげ落ちたにんげんの印形
コンクリートの床にガックリ転がったまま
なにかのカで圧しつけられてこゆるぎもしないその
蒼ぶくれてぶよつく重いまるみの物体は
亀裂した肉のあいだからしろい光りだけを移動させ
おれのゆく一歩一歩をみつめている。
俺の背中を肩を腕を.べったりとひっついて離れぬ眼。
なぜそんなに視るのだ
あとからあとから追っかけまわりからかこんで、
ほそくしろい視線を射かける
眼、め、メ
あんなにとおい正面から、あの暗い陰から、この足もとからも
あ、あ、あ
ともかく額が皮膚をつけ鼻がまっすぐ隆起し
服を着けて立った俺という人間があるいてゆくのを
じいっと、さしつらぬいてはなれぬ眼。
熱気のつたわる床から息づまる壁から、
がらんどうの天井を支える頑丈な柱の角
から現われ、あらわれ、消えることのない眼。
ああ、けさはまだ俺の妹だった人間のひとりをさがして
この闇に踏みこんだおれの背中から胸へ
腋から肩ヘ
ベたべた貼りついて永却きえぬ眼!
コンクリートの上の、筵の藁の、
どこからか尿のしみ出す編目に埋めた崩れそうな頬の
塗薬と、分泌物と、血と、焼け灰のぬら
つく死に貌のかげで
や、や、
うごいた眠が、ほろりと透明な液をこばし
めくれた唇で
血泡の歯が
おれの名を、噛むように呼んでいる。
01:36

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第4章 『ちいさい子』 TOP 対訳
ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどこにいるのか
ふとつまづいた石のように
あの晴れた朝わかれたまま
みひらいた眼のまえに
母さんがいないくっきりと空を映すおまえの瞳のうしろで
いきなり
あか黒い雲が立ちのばり
天頂でまくれひろがる
あの音のない光りの異変
無限につづく幼い問いのまえに
たれがあの日を語ってくれよう
ちいきい子かわいい子
おまえはいったいどこにいったか
近所に預けて作業に出かけた
おまえのことその執念だけにひかきれ
焔の街をつっ走って来た両足うらの腐肉に
湧きはじめた蛆を
きみ悪がる気力もないまま
仮収容所のくら閣で
だまって死んだ母さん
そのお腹におまえをおいたまま
南の島で砲弾に八つ裂かれた父さんが
別れの涙をぬりこめたやさしいからだが
火傷と膿と斑点にふくれあがり
おなじような多くの屍とかさなって悶え
非常袋のそれだけは汚れも焼けもせぬ
おまえのための新しい絵本を
枕もとにおいたまま
動かなくなった
あの夜のことを
たれがおまえに話してくれよう
ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどうしているのか
裸の太陽の雲のむこうでふるえ
燃える埃の、つんぼになった一本道を
降り注ぐ火弾、ひかり飛ぶ硝子のきららに
追われ走るおもいのなかで
心の肌をひきつらせ
口ごもりながら
母さんがおまえを叫び
おまえだけ
おまえだけにつたえたかった
父さんのこと
母さんのこと
そしていま
おまえひとりにきせてゆく切なきを
たれがつたえて
つたえてくれよう
そうだわたしは
きっとおまえをさがしだし
その柔い耳に口をつけ
いってやるぞ
日本中の父さん母さんいとしい坊やを
ひとりびとりひきはなし
くらい力でしめあげ
やがて蝿のように
うち殺し
突きころし
狂い死なせたあの戦争が
どのようにして
海を焼き島を焼き
ひろしまの町を焼き
おまえの澄んだ瞳から、すがる手から
父さんを奪ったか
母さんを奪ったか
ほんとうのそのことをいってやる
いってやるぞ!
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第5章 『呼びかけ』 TOP 対訳
いまでもおそくはない
あなたのほんとうの力をふるい起すのは
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた
心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から、どくどくと戦争を
呪う血膿をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつなら焔の迫ったおも屋の下から
両手を出してもがく妹を捨て
焦げた衣服のきれはしで恥部をおおうこともなく
赤むけの両腕をむねにたらし
火をふくんだ裸足でよろよろと
照り返す瓦礫の砂漠を
なぐさめられることのない旅にきまよい出た
ほんとうのあなたが
その異形の腕をたかくきしのべ
おなじ多くの腕とともに
また墜ちかかろうとする
呪いの太陽を支えるのは
いまからでもおそくはない戦争を厭いながらたたずむ
すべての優しい人々の涙腺を
死の烙印をせおうあなたの背中で塞ぎ
おずおずとたれたその手を
あなたの赤むけの両掌で
しっかりと握りあわせるのは
さあ
いまでもおそくはない
00:08
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03:13
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03:32
03:41
03:50
03:59
04:02
Finale 『人間をかえせ』
ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせわたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
にんげんをかえせ
ああ
00:29 (04:43)
00:42
00:46
01:04
01:15
01:32
01:37
01:45
01:54

Total
43:49

JASRAC情報

製作日誌: TOP
平成15年3月22日 歌詞のみ打ち込みました。打ち込みながら、涙が止まりませんでした。
平成15年3月22日 「序」「第1章」2行目までをMIDI化しました。
平成15年3月23日 「第1章 〜連兵場の死体」までをMIDI化しました。
平成15年3月29日 「第1章 〜太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの」までをMIDI化しました。
平成15年4月5日 英訳を掲載しました。三友社出版「HIROSHIMA POEMS」より
平成15年4月6日 「第1章 『死』〜焦げ散ってない」までをMIDI化しました。
平成15年4月20日 「第1章 『死』〜裸のむすめたち」までをMIDI化しました。
平成15年4月21日 「第2章 『仮繃帯所にて』前奏」までの一部(伴奏とSP部)をMIDI化しました。
平成15年11月24日 「第2章 『仮繃帯所にて』をMIDI化。データが長くなりましたので、分割しました。
【製作裏話】
カワイのスコアメーカーを使ってみました。
結論は40%程度は使い物になりますが、手直しがかなり入ります。特に5〜7連譜では誤読が多かったです。
このソフトは、楽譜をスキャナーで読み込んでMIDI変換するというもの。スキャナーの読み込みまでは結構いけるのですが、MIDI変換で上記のようなトラブルが多発。結局、手直し作業がかなりありました。
平成16年8月1日 「第3章 『眼』」をMIDI化しました。
しかし、この章はMIDIには向きませんね。3連符・5連符・6連符・7連符の連続で、聴かれても何が何だかわからないと思います。
「第4章 『ちいさい子』」の最初の9小節
「第5章 『呼びかけ』」の最初の5小節
「フィナーレ 『人間をかえせ』」を併せてMIDI化しました。何とか、間に合わせたいけど
平成16年8月3日 第5章・FinaleをMIDI化。
第5章では、Finaleと連続データとしました。Finaleでは、Finaleが単独でお聴きいただけます。
あと、第4章の85小節。楽譜13ページ。(全69ページ、残り18.9%。こりゃ、キビシ〜〜、8月6日まで。)
平成16年8月6日 第4章をMIDI化。完成!
とにかくヤッツケながら完成です。あと、細かい所の化粧直しは、オイオイ
TimeScaleを追加(7日)
平成16年8月7日 序〜FinaleまでのMIDIを統合しました。
第1章などで不都合があったのを修正しました。
歌詞割りで促音便などの部分をタイ接続して、歌詞と音符の整合性を調整しました。
「第1章・死」の「ああ、逃げられる」で、「採譜の達人」を使ってみました。ちょっとね。
平成18年8月12日 青空文庫へのリンクを追加